火災の発生を受け、消防隊員が次々と棒につかまって、するりと階下に下りて出動していく。映画やテレビドラマで、こんな場面を見たことのある人は、多いのではないだろうか。
その「滑り棒」が、全国の消防署などから姿を消しつつある。なぜ使われなくなっているのか。現状を調べた。
(斉藤正志)

 兵庫県内で滑り棒を使っていたのは、加古川市消防本部が最後だったとみられる。施設の建て替えなどで棒を廃止した自治体もある一方で、同本部は活用を続けていた。ただ、2016年ごろには使わなくなったという。

■実は階段の方が速い

 仲宗根副署長は「一番の理由は安全面。使用していた時は下にマットを敷いていたが、それでも足をくじくなど、けがのリスクがあった」と教えてくれた。

 さらに、意外な理由を口にした。「実は階段の方が速いんです」

 滑り棒は、安全のため、前の隊員が下りたのを確認してから一人ずつ使わなければならない。階段なら一斉に動けるので、出動までの所要時間が短いという。車庫にロッカーを設置する以前、テレビ番組の中で実際にタイムを計った時は、滑り棒よりも階段を使った方が速かったという。

 中央消防署は1967年の建築から60年近くがたつ。建て替えなどの計画は決まっていないが、仲宗根副署長は「もし建て替えになったら、滑り棒はなくなるでしょう」と話した。

 京都府の舞鶴市消防本部も滑り棒を使っていたと知り、聞いてみた。

 同本部消防総務課によると、かつて3カ所の消防署などに整備していたが、建て替えや改修に伴い、2011年ごろには全てなくなった。担当者は安全面や出動までの所要時間を理由に挙げ、「滑り棒を使うメリットがなく、デメリットの方が大きい」と説明した。


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