またホラー小説書いてみたから添削してくれ
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今週の水曜にスレ立てした者だ。
【初めてホラー小説書いてみたから品定めしてくれ】
https://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1687936150/
あの時、コメントしてくれた人、まとめサイトでもコメントしてくれた人、ありがとう。
とても勉強になりますたm(--)m
みんなのアドバイスを参考にまた書いてみたので、もしよかったらアドバイスしてくださいませ。
もちろん感想も嬉しいです!
今回は8500字くらいあって、全10回に分けて投稿します。
まとめて読みたい人は下記URLをご照覧あれぃ!
https://editor.note.com/notes/n1bfdbfa14ec2/edit/
題:「なもさんまんだ」 ◆◆◆◆◆◆
【1/10】
都立高校の校舎が茜色に染まる頃。グラウンドを走る陸上部の吐く息は白く、掛け声は校舎中に響き渡っていた。そんな中、人気のないはずの体育館裏で、女子生徒のか細い悲鳴があがった。
頭からバケツの水をかぶった女子生徒・七瀬の姿を見て、男子生徒たちは口をゆがめて笑う。黒川は手に持ったバケツを放り投げると、七瀬の濡れそぼった長い髪を掴んだ。
「いつもいつも、くっせえ臭いまき散らして…お前は一年三組の“公害”なんだよ」
「…まあ、あんな汚ねえボロアパートに住んでりゃ当たり前か。代わりに俺たちが洗ってやるよ。なあ?」
黒川が他の男子生徒たちに同意を求める。三人中二名は「ああ、感謝しろよ」と賛同したものの、一人だけ口をつぐむ者がいた。
「なあ、白井もそう思うよな?」
黒川は沈黙する白井に念押しの確認をした。
「…うん」
同意する白井の声は震えていた。
「…で、“アレ”、持ってきたんだろうな?」
黒川がとある男子生徒たちの方へ振り返ると、彼のピアスが西日をうけて反射した。耳の軟骨に何本も金属の棒を通しており、黒川という人物の威圧感を強調していた。
他の男子生徒はニヤニヤしながら、キッチンハイターを取り出した。家庭科の教室からくすねてきたものだ。黒川はニヤリと笑い、乱暴にそれを受け取った。
「ほら、コイツで“漂白”してやるよ」
男子生徒たちは下品な笑い声をあげながら、七瀬にキッチンハイターをぶちまけた。七瀬はかたく目をつむって、くぐもった悲鳴をあげた。
「白井。お前もやれ」
黒川は白井にキッチンハイターを渡した。白井は自分に拒否権がないのを分かっていた。恐る恐る彼女の頭上にかかげた。
「やべえ、タニセンがこっち来てる!」
見張り役の男子生徒が小走りで報告へ来た。白井は胸を撫で下ろす。
「…仕方ねえ、今回はこのくらいにしとくか。明日も楽しみにしとけよ、ゴミカス女」
黒川は七瀬に唾を吐くと、他の男子生徒を連れて、足早にその場を去った。
体育館裏の薄暗い影の下、七瀬はじくじくとした痛みと、凍えるような寒さに耐えながら、小さな声で何かを呟いた。 ◆◆◆◆◆◆
【2/10】
黒川たちは歩道を占拠するように横に広がりながら、歩いて駅に向かっていた。
「明日は何すっかなあ、虫を食べさせるのも、そろそろ飽きてきたよな。捕まえるのも面倒だしよ」
「いっそのこと、裸の写真でもばら撒いてやるのはどうよ」
「バカ、誰があんなゴミカス女の裸なんて見たがるんだよ」
男子生徒たちは残虐ないじめの案を出し合いながら、ケラケラと笑った。
彼らの一歩後ろを歩いていた白井は暗澹たる気持ちに苛まれていた。彼らが七瀬をいじめることに特別な理由などない。彼女はただ、貧乏で、臭くて、田舎からやってきた転校生だった。先生たちはいじめを黙認しており、たとえ見かけたとしても軽く注意する程度だった。
白井はそんな状況に嫌気がさしながらも、中学の頃に自身がいじめられていたこともあり、止める勇気はなかった。いつしか黒川に目をつけられ、言いなりになるしかなかったのだ。
いじめっ子というのは、いじめられっ子の臭いを本能的に嗅ぎつけるのである。
「おい、白井も何かアイディアないのかよ?」
黒川は、集団の一歩後ろを歩く白井に肩を組んでみせた。黒川のピアスが白井の側頭部にあたり、緊張が走る。どんないじめをするかなんて考えたくもなかったが、逆らう訳にはいかなかった。いつ自分がターゲットになるか分からない。必死に考えを巡らせた。
「…髪を切るっていうのはどうかな。彼女の髪、長いし、洗うのとか大変そうだから」
黒川たちは一瞬の沈黙の後、爆笑した。
「…なんだよ、悪くねえ案出すじゃねえか。じゃ、明日はそれで決定な」
「おい、誰かバリカン持ってこいよ」
白井はハサミで髪の毛を短くする程度の思いつきだったが、「バリカン」という単語を聞き、自分の浅はかさを悔やんだ。
やがて最寄駅に到着し、生徒たちはそれぞれのホームに向かう。白井はようやく一人の時間を手に入れたことに、安堵のため息をついた。電車に乗り込み、隅の席に座ると、足元の暖房の暖かさに誘われ、うとうととまどろみはじめた。
それが束の間の平穏だとも知らずに。 あははは、ユーモアセンスすごいね面白すぎて笑いが止まらないわ >>3
見てくれてありがとう! なもさんは、これからじょじょに出していく予定だ…!
◆◆◆◆◆◆
【3/10】
次の日の放課後、一階の隅の空き教室で七瀬の断髪式が密やかに行われた。
男子生徒たちは、彼女の異様に長い髪をよってたかって切りはじめた。彼女はされるがままに、うつむいていた。ある程度髪が短くなった頃には、彼女の足元は黒い海のようになっていた。
やがて黒川がバリカンを取り出して、スイッチを入れると彼女の肩はびくりと震えた。
「じっとしてろって」
黒川は七瀬の頭を押さえつけて、うなじを剃り上げていく。彼女は抵抗するものの、他の男子生徒に押さえつけられ、なす術もなかった。
やがて、彼女は抵抗するのをやめて、おとなしくなったかと思うと、ブツブツと何事か呟きはじめた。
「…なもさんまんだなもさんまんだ」
彼女の不気味さに男子生徒たちは一瞬ひるんだ。
しかし、黒川はバリカンを手にしたまま、「勝手にしゃべってんじゃねえよ」と彼女の顔を殴った。すると、運悪くバリカンが彼女の頭皮に食い込み、鈍い振動音をたてながら、周囲に血飛沫を撒き散らした。
「…あーあ、ゴミカス女の汚え血が付いちまったじゃねえか」
「どう落とし前つけてくれるんだよ、オイ」
頬に血飛沫を浴びた黒川が、再び七瀬に殴りかかろうとした。
流石にこれ以上はまずいと思った白井は、驚いたことを装って、机に向かって転んでみせた。机や椅子が派手な音を立てて転がる。
「何やってんだよ、グズ!」
黒川が白井に怒声を飛ばすが、すぐに廊下から足音が聞こえた。
「そこで何してる!」
教育指導の教員の声が廊下から聞こえ、白井を含めた男子生徒は散り散りになって、窓の外から逃げた。
またもや、七瀬は置き去りにされ、その場でうずくまっていた。
騒動の中、誰も気が付かなかった。バリカンが皮膚に食い込もうと、机が派手な音を立てようと、彼女はただひたすらに「なもさんまんだなもさんまんだ」と唱え続けていたことを。 >>5
>>6
うむ;; まだ続きがあるからもう少し読んでもらえたら嬉しい
◆◆◆◆◆◆
【4/10】
バリカン事件の翌日、七瀬は学校を休んだ。当然だと白井は思った。あんなことをされては、学校に来れるはずもない。むしろ今まで登校していたのが不思議なくらいだ。
彼女はその後も数日間休み続けた。暇を持て余した黒川は、自習時間中に白井の席にやってくると、ノートを広げていた机の上に座り、暗い眼光を向けた。
「なあ白井、お前、あの時わざと転んだだろ」
ぞくりと白井の背筋に冷たいものが走った。
「あ、あの時って…?」
「とぼけんなよ。七瀬の髪を切ってやってた時にてめえが転んだから、先公が来ちまったんだろうが」
言い訳できず、黙ったままでいると、黒川は白井の耳たぶをつねった。
「お前には、覚悟ってものが足りねえな。よし、今度お前のの耳に穴開けてやるよ。ピアスでもつけたら、ちったあ箔が付くだろ」
黒川はそう言って、意地の悪い笑みを浮かべたまま立ち去った。
白井は体が震えた。黒川のことだから、ちゃんとした道具で穴を開けるとは思えない。考えただけで身の毛がよだつ。そして、いじめのターゲットが七瀬から自分に変わったことを悟り、震える膝を必死で抑えるしかなかった。
だが、しばらくして、黒川を筆頭に七瀬のいじめに関与していた生徒が次々と学校を休むようになった。この不可思議な状況を白井は理解できなかった。
いじめが行われなかったことに安堵しつつも、なぜ七瀬だけでなく、黒川たちも休んでいるのかが謎であった。
学校が終わった後、近くの公園に立ち寄り、ぼんやりと思考を巡らせていると、誰かの視線を感じた。振り向こうとしたが、なぜか体がこわばったように動かない。首が鉛のように重く、まるで自分の体ではないかのようだった。
半ば無理矢理、首を後ろに向けると、そこには七瀬が立っていた。 ◆◆◆◆◆◆
【5/10】
予想外の出来事に、白井は声が出なかった。七瀬は頭の傷を隠すためにニット帽をかぶっていた。ほつれや毛玉だらけのセーターは、冬の曇天には寒々しくうつった。
しばらく気まずい沈黙がつづいたあと、口火を切ったのは七瀬の方だった。
「…白井君。もしかして、あの時、私のことを助けようとしてくれたの?」
普通に話す彼女の声を久々に聞き、白井は少したじろいだ。
「う、うん。そのつもりだったけど…遅すぎたよね」
白井は七瀬に向きなおり、そして深々と頭を下げた。
「ずっと七瀬さんをいじめてて…謝って済むことじゃないけど、本当にごめんなさい」
そして、かつていじめられていたこと、そして黒川にターゲットにされるのが怖かったことを話した。自己満足の言い訳にすぎないことは分かっていたが、七瀬は黙って彼の話を聞いていた。
「…そっか、白井君も怖かったんだね」
まるで仕方のないことだと自分に言い聞かせるかのように、七瀬は呟いた。
「…でも、あの時殺されるんじゃないかって思って…本当に、本当に怖くて…」
そう告白する彼女の目からは涙が溢れていた。白井は慌ててハンカチを差し出すと、七瀬は「ありがとう」と寂しげな表情で受け取った。その時、ほんの少し指先が触れ合い、白井は七瀬の手が驚くほど冷たいことに気づいた。近くに自動販売機があったので、そこで温かい飲み物を買い、七瀬に渡した。
「白井君、本当は優しいんだね」
七瀬のその言葉を聞いた時、白井は罪悪感でいっぱいになった。髪を切ろうと提案したのは自分だ。七瀬に怪我をさせたのも、学校に行けなくしたのも、原因の一端は自分にあるように思う。
白井が押し黙ったままでいると、七瀬はこう続けた。
「私、本当はね、普通の女の子になりたかったの。普通に友達がいて、普通に話したり、遊んだりしたかったんだ…」
そして、七瀬は意を決したように白井の目を見た。
「あの、もしよかったらでいいんだけど…友達になってくれないかな。」
「え? 友達?」
「白井君、なんとなく私と似てるような気がして」
「…似てる…?」
「…あ、ごめん。私と似てるなんて嫌だよね…」
「いや、そんなことは…」
白井は答えを濁したが、友達になるのは少しためらいがあった。そうした白井の感情の機微を察知したのか、七瀬は立て続けにしゃべった。
「あっ、もちろん学校では話しかけたりしないから。黒川君たちもいるし…たまにこうやって公園で話せたらなって…」
「黒川たちなら最近学校に来てないよ。理由はよく分からないけど…」
「え、本当に?」
七瀬は目を見開きながらも、表情には嬉しそうな感情が表れていた。
「そっか、ずっと学校に行くのが怖かったけど…明日から行ってみようかな。教えてくれてありがとう」
そう言って微笑む彼女は、どこにでもいる普通の女子生徒に見えた。白井はなんとなく気恥ずかしくなり、視線を逸らした。
「ひとつお願いがあって…ずっと夢だったことなんだけど」
七瀬は少し頬を赤らめながら、こう切り出した。
「友達を家に呼んでみたいの…ダメかな?」
思わぬ提案に白井は虚をつかれた。七瀬の家はとんでもないボロアパートだと聞くし、いきなり家に行くというのも、なんだか急すぎるような気がした。
「来るよね? 白井君」
戸惑っていると、七瀬は突然顔を近付けてきた。生ゴミのような異臭が鼻腔を刺激する。彼女の瞳は闇のように暗く、光はなかった。そこには有無を言わせない迫力があった。先ほどまで普通の女子生徒に見えたのが噓みたいだった。
白井には、もはや何が起こっているのか整理がつかなかった。
「い、行くよ」
白井は、思わずそう口にしていた。言ってから、やってしまったと後悔する。白井の心中とは裏腹に、七瀬の瞳はわずかに輝きを取り戻した。
「よかった。じゃあ、家こっちだから」
七瀬は戸惑ったままの白井の手を引いて、彼女の家へと向かっていった。
彼女の手は冷たいどころか、むしろ手汗が出るほどの熱を発していた。 ◆◆◆◆◆◆
【6/10】
「なもさんまんだ、なもさんまんだ」
家へ向かう道すがら、七瀬は楽しそうに謎の言葉を口ずさんでいた。彼女がバリカンで頭を剃られていた時、唐突に抵抗をやめて、唱えはじめた言葉だった。
「…それ、どういう意味なの?」
「これはね、私の故郷に伝わるおまじない。本当は助けてほしい時に唱えるんだけど、嬉しい時にも言うといいんだって。おばあちゃんに教わったんだ」
遠くを見つめる七瀬は、どことなく楽しそうだった。
「白井君も言ってみて。『なもさんまんだ』だよ」
「なも、さんまんだ…?」
「そうそう」
そんなやり取りをしているうちに、トタン屋根の茶色いアパートが見えてきた。遠くからでもはっきり分かるほどの、みすぼらしいアパートだった。近づけば近づくほど異臭が強くなり、アパートの前を通りかかった主婦は顔をしかめて、そそくさと去っていった。
白井は、ごくりと唾を飲んだ。錆びついて頼りない階段を登り、203と書かれた部屋の前にたどり着いた。
「ここが私の家。…少し変な匂いがするかもしれないけど、ごめんね」
七瀬は苦笑しながら、ドアの鍵を開けた。
途端に今まで嗅いだこともないような凄まじい臭気が広がり、白井はむせてしまいそうになった。なんだこの匂いは。生ゴミとも、カビともいえない、なにかが酸化したような匂いだった。今すぐにでも逃げ出したい気持ちだったが、もう後に引くことはできない。小さな声で「お邪魔します」と言って、玄関に足を踏み入れた。
「うち、おばあちゃんしかいないんだ。奥の部屋にいるから挨拶してくれる?」
七瀬は靴を脱ぐと、ニット帽を外した。彼女の髪はあの時のままで、チグハグな長さの髪が隙間風にそよいだ。本来、髪で隠されるべき後頭部には赤黒い傷跡がはっきりと残っていて、白井は思わず目を背けてしまった。
照明は薄暗いが、よく見ると虫の死骸やら、髪の毛やらが大量に落ちている。気づくと彼女は奥の部屋のドアを開けようとしていた。白井は急いで靴を脱いで彼女の後を追った。
奥の部屋には、七瀬の祖母らしき人物が介護ベッドに横たわっており、その口からは涎が垂れていた。七瀬はティッシュで涎を拭くと、部屋の入口で突っ立っている白井を紹介した。
「この人、お友達の白井君。今日、一緒に夕飯食べるんだ。ね、白井君」
いつのまにか夕飯まで食べることになっていることに白井は驚いたが、うなずくしかなかった。七瀬の祖母は「あ…あ…」としか喋らず、話が通じているのか、白井を認識しているのかさえも分からなかった。
「じゃあ、夕飯の準備してくるから、白井君は適当にくつろいでて」
七瀬がそう言って祖母の部屋から離れると、白井は何をしていいのか分からず頭を掻いた。くつろぐと言っても、こんなゴミだらけの家のどこでくつろげというのだ。とりあえず、七瀬のあとをついて行こうとしたその時だった。
「…あんたが、あの娘の頭、やったんか」
背後から声が聞こえて振り返ると、七瀬の祖母は上半身を起こし、白井をにらみつけていた。 【7/10】
突然、七瀬の祖母が明瞭に話し始めたことに、白井は動揺を隠せなかった。
数秒の後、質問の意味をようやく理解し、七瀬のいじめに関与したことや、黒川に逆らえなかった事情を説明した。七瀬の祖母はじっと聞いていたが、やがて口をひらいた。
「…そうかえ、あんたも辛かったんでなあ」
祖母が七瀬と同じように自分の辛さに理解を示してくれたことに対して、白井の罪悪感はさらに重みを増していった。
祖母は拝むようなポーズをしながら「なもさんまんだ、なもさんまんだ」とつぶやいた。もしかすると「なもさんまんだ」というのは、「なんまいだ」が訛ったものなのだろうか。
そんなことを考えていると、七瀬が再び部屋に顔を出した。
「白井君、まだおばあちゃんのところにいたんだ。ご飯の準備できたからこっち来て」
白井は七瀬にうながされるまま付いていき、部屋を扉を閉じる前に七瀬の祖母に向かって頭を下げた。老婆は干からびたように目を閉じて眠りについていた。 ◆◆◆◆◆◆
【8/10】
ゴミくずだらけのちゃぶ台の上には、土鍋が置かれていた。白井は、茶色く変色した畳の上におそるおそる正座した。
部屋が暗く鍋の中身は判然としないが、緑灰色のどろりとした液体が入っているように見えた。その中に、肉片やら、野菜くずやらが入っているのが、かろうじて確認できた。近づくとさらに臭気がすさまじい。すでにこの家の臭気にも慣れ始めてきた頃だというのに、その臭気をその名の通り煮詰めたような強烈な刺激臭を放っていた。
七瀬の方をちらりと見ると、「たいしたものじゃないけど、めしあがれ」と無邪気な笑顔を見せた。
怖々と箸を手にする。箸にも何かがこびりついているように見えたが、深く考えないようにした。そして、肉をすくって自分の椀にいれる。口元まで運んで、胃液が上がるのをグッとこらえた。
そして一息に口に放り込んだ。
噛んでみると、意外と普通の肉だった。豚のような、牛のような味がする。臭気をのぞけば、案外普通の味だった。
「どう? おいしいかな?」
七瀬は不安そうに白井の様子をうかがっている。よほど険しい顔をしていたようだ。悪いことをしてしまったと思いながら、白井は「おいしいよ」と返した。七瀬は「よかったあ」と心底嬉しそうな顔をした。彼女のこんな表情をみるのは初めてかもしれない。
「これってなんの肉なの? 豚? 牛?」
素朴な疑問を口にすると、七瀬は微笑んだまま黙った。七瀬の瞳は吸い込まれそうなほど黒かった。彼女の無言の圧に耐え切れず、白井はもう一度鍋の中の肉をすくって食べてみた。
今度はあまり味はしないが、コリコリとした食感がする。不思議な肉だと噛みしめていると、ガリっという固いものの感触があった。
骨の一部まで口に入れていたようだと、白井はそっと吐き出した。
それはとても細い金属のようだった。三センチくらいの長さで、両端に丸い細工がしてあった。それは、間違いなく、ピアスだった。
そこまで思考してようやく、これが「誰」のピアスなのか、自分が「何」を食べているのかを理解した。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ! アヒャヒャヒャヒャヒャ! 食べた! 食べた!」
七瀬は突然半狂乱になって笑い出した。瞳孔がひらき、歯茎をみせて笑った。とても人間とは思えないような顔つきだったが、白井はそれどころではなかった。
吐き気と同時に息が苦しくなり、意識が遠のくのを感じた。ここで倒れてはいけないと思いながら、次第に目の前が白く霞んでいった。 見てる人いるのかな…?
◆◆◆◆◆◆
【9/10】
気づくと、白井は病院のベッドの上だった。母が泣きながら、白井の手を握っていた。白井の頭はぼんやりとしていて、なぜ自分がここにいるのか分からなかった。
「白井さん、気分はどうですか? 私の声が聞こえていますか?」
母の傍らには、医者と警察らしき人物が立っていた。
「…はい、聞こえています。あの、いったい何が…」
そう聞き返すと、医者は渋い顔をした。
「…それは私たちが聞きたいところなんだけどねえ」
「君の喉に奇妙なものが詰まっていてね。髪の毛や人間の肉が圧縮された塊だったんだ。とても人間の力で作られたものだとは思えないんだよ」
髪の毛、人間の肉。その単語を聞いて、あのおぞましい鍋の光景を思い出し、吐き出してしまった。とはいっても、数日間ろくに食べていなかったようで、胃液のようなものが口から流れて、喉が焼けるように痛かった。
「大丈夫、ゆっくりでいいから、何が起こったのか話してくれるかな」
心配する医者を制しながら警察の人が出てきて、白井の前に座った。白井は断片的な記憶をつなぎ合わせながら、七瀬の家で起きた惨劇を語った。
白井の話を聞いた警察は、翌日七瀬の家を家宅捜索した。捜査員たちもあのすさまじい腐敗臭には手こずったようだが、黒川やいじめに加担していた男子生徒の肉片が見つかった。奥の部屋では、老婆が衰弱死していたらしく、あの日は元気そうに見えたのにいったい何故亡くなったのかと、白井は訝しんだ。
当の七瀬はというと、あの日以来、行方不明になったようだった。警察はその後も懸命に調査を続けたが、七瀬を見つける事はできなかった。 >>13
真面目に全員に返信しない方が良いかの?;;
◆◆◆◆◆◆
【10/10】
数週間後、体調が回復し退院した白井は、大きな図書館や郷土資料館に通っていた。例の「なもさんまんだ」の言葉について、何か手がかりがないか調べていた。
そして、白井は膨大な資料の中からとある文献を見つけた。
それは人肉を食べる風習のある、〇〇山の奥地の集落の資料だった。その集落では「なも・さんまんだ・ぼたなん・きりく・か・そわか」と唱える禁術が存在するらしく、自分の命と引き換えに相手を呪い殺す際に使われると書かれていた。術についてさらに詳しい記述があったが、無意識に身震いしているのを感じて、それ以上読むのをやめた。
七瀬は自分の出身を明かさなかったのだ。もうこの件について考えるのはよそう。終わったことだ。白井はそう考えて帰路についた。
そして、靴を脱いで、私服に着替える。「ああ、今日は母さんはいないんだったな」と思い出して、白井は夕飯を作るためにキッチンへと向かう。
白井は鍋に水を入れて火をかけると、冷蔵庫を開けた。
「さて、今夜の人肉はどうしようかな…」
〜終〜 最後まで読んでくれてありがとうございます!
今回は「タコピーの原罪」を参考にしました(しずかちゃんのキャラクター像など)。
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